20110702

Archiduino Project - vol.20

建築系におけるArduino利用計画としての「Archiduino Project」。

今回の記事でついに20回目となり、個人的にはひとつの区切りを迎えたように思う。今回の内容は「Eagleをつかった自作Arduinoの回路設計」と「Fusion PCBをつかった自作基板の発注」である。各種センサーのコントロール基板(いわゆるマイコン部分)としての「自作Arduino」の製作は、この内容を持ってほぼ完成であると思われる。これ以降はおそらくそのバリエーションでしかないだろう。

これまではユニバーサル基板やブレッドボードの上に様々な部品配置をおこない、その上でArduinoを走らせると言うことを行ってきたわけだが、その方法に限界を感じるようになってきた。第一に、ダウンサイジングが困難であるということ。第二に、手作業の数が半端ないので時間的なコストが大きいと言うことである。確かにはんだ付けは楽しい、しかしながら、その労力はその楽しさをいつか損ないかねない。プロトタイプの作成段階をとっくに終え、いまや量産の段階に入らんとするとき、やはり方法の変革は必要だろう。

ということで、基板のプリントに手をつけるときが来たというわけである。ちなみに、千石電商などでも感光基板を売っているのを目にしていたが、結局これも道具やら材料やらの手配に時間とコストがかかるので、どうせならPCB(Printed Circuit Board)サービスを利用してやろうともくろんでみた。特に最近話題の「Fusion PCB」なる、中国は深玔にあるというローコストなPCBサービスを使ってみようというわけだ。ちなみにFusion PCBはすでに何度か利用したことのあるSeeed StudioのPCBサービスである。

PCBを利用するに当たり、最初にすべきは発注用のガーバーデータ(部品配置やシルクプリントなどのデータとドリル穴あけ用のNCデータとをひっくるめた意味とする)の作成である。ガーバーデータの作成は、よくわからんけど、とりあえずソフト上で回路図と基板上の部品配置図とを作成してからデータを書き出す、みたいな手順を踏むらしい。というわけで、ガーバーデータの作成の前に回路図を組まなければならない。回路図については、これまでさんざんArchiduinoを作ってきたワケなので、これと同じ回路で良い。というわけで、回路図を組むのにEagleを使ってみることとする。

ちなみにEagleはドイツ製の回路図作成フリーソフト。フリーの状態だと設計できる基板のサイズに制限(50x100mmくらい)があるが、シロウトのDIY程度であればこれで十分だろう。ちなみにEagleのすばらしいところは、回路図を組めば同時に部品の配置図まで作成してくれ(もちろん基板上の最終的な配置は自分でする)、配置を終えれば自動配線機能により最適化された配線をしてくれてしまうというすぐれものである。

世界中のユーザーに支えられているおかげで、Fusion PCBをはじめとして、世のPCBサービスに納品すべきガーバーデータの書き出し設定ファイルが手に入り、これをつかってぽんぽん進めていけば、なにも考えることなく基板発注が終わってしまうと言うわけだ。すばらしいというしかない。

たしかにEagleの操作性はちょっと今ひとつなところはあるが、それはあくまでIllustratorなどと比較した場合であるわけで、不便だなとは思いつつも慣れればたいした問題ではなく、フリーソフトとしては十分な完成度であろう。ちなみに日本語版はなく、有志が日本語化パッチを出している程度なので、その辺の覚悟は必要だろう。

Eagleの使い方についてはまた別な機会に譲るとして、回路図の作成→配置図の作成まで終わったら、Fusion PCBに納品すべきガーバーデータの作成である。これもFusion PCBから公開されている設定ファイルを読み込み、それにマッチするかどうかチェックすれば良いだけだ。不適合な箇所についてはアラートが出るので、主に配線とドリル穴とのクリアランスの問題だと思うが、その部分の修正を行えば良い。アラートが出なくなったら納品できるデータと相成ったわけである。

Fusion PCBへの納品方法は、Seeed Depotで販売されている「Fusion PCBクーポン」みたいなモノを購入し、その購入番号とデータとを先方にメールで送ればあとは中の人が宜しくやってくれるという寸法である。50x50mmの基板(×10枚)で9.9ドル、最も安い郵送方法だと送料が3ドルちょっとなので、トータルでも13.42ドルだ。1ドル87円換算だとすると、1,170円くらい。これで10枚のプリント基板が手に入るのだから、安いと言わざるを得ないだろう。ちなみに50x100mmの場合、15ドル上乗せである。

Fusion PCBに発注し、先方から「under processing」の返信が来たら、後は安心して10日ほど待てば良い。おそらくUPSなどの速達便を使えばもう少し納品が早いのだろうが、発注したモノよりも値段が張るので気が引ける。はやめはやめの発注が肝要だろう。発注して待っている間に秋月などに部品の手配をする(これもネット経由)のがいいだろう。

というわけで待つこと10日。香港ポスト経由で日本郵便が持ってきてくれる。書留である。小さな段ボール箱にエアキャップで梱包されている。このエアキャップ、日本のモノに比べて実に貧相で、ぎゅっと握るだけで相当数が破裂する。ともあれ、開梱、チェック、部品の実装を行い、動作の確認、というわけだ。

Twitterなどを見ると多くの先人たちがFusion PCBをすでに利用しているようだ。なるほどこの手軽さと安さは非常に魅力的である。送料にお金を掛けないと時間がかかるが、のんびり次回作のアイディアでも練りつつ待っているのが良いのではないだろうか。

ちなみに、今回発注したのは2品。ひとつは、これまでのArchiduino基板と互換性のある名刺サイズの基板。もうひとつは、ATmega328を使いつつも最小までダウンサイジングをしたモノとの2種類である。前者は50x100サイズになってしまうのでちょっと値が張る(1枚250円くらい)。後者は右の写真の通りで、2.54mmピッチのグリッドで14x14サイズ(38mm四方)に収め、AC駆動かつXBeeチップを搭載可能な基板とした。これで1枚120円なのだからすばらしいよね。

初めてPCBを利用して強く思ったのは、一度Eagleの使い方を覚え、PCBサービスの利用方法を覚えれば、おなじ「Arduino」という道具でも活用の幅が段違いに広がるということである。例えば、ちょっとした隙間に基板全体を収めなければならない場合でも、そのサイズに合うように回路を設計すればよく、配線が出来ないだとか、基板の大きさが合わないだとかが理由で、もろもろを断念することがなくなるのだ。これはすごい。それから、とりあえず現段階では、はんだ付けという作業は部品の実装だけに限られるわけであり、大幅な労力削減と正確性が確保された。確かにちょっとはんだ付けするに精密さが要求される場面があるが、職人でなければ出来ないというレベルではない。そろそろ各方面にばらまくことも考えてみようか。