20101202

Archiduino Project - vol.13

建築系におけるArduino利用計画としての「Archiduino Project」。

時が経つのは早いもので、終わってからもう2週間が経過しようとしているところだが、今回念願の初参加となった「Make: Tokyo Meeting 06」についてレポートしたいと思う。

1. Archiduino-BBについて

まさか本当に売れるとは思ってもいなかったが、ありがたいことに4名もの方にお買い上げいただいた(用意したのは強気の10パック)。本当にありがとうございました。おそらく部品的な不備はないかと思うが、もし不備などあったらTwitterにてご連絡いただきたい。ご連絡いただくよりも各自手配された方が早いとは思うがw

当日現地で配布していた、構成情報などを掲載したA5のペーパーはこちら(そもそも準備枚数が少なかったため1日目には配布終了)。印刷版は少々文字がかすれ気味でしたので、こちらの方が可読性が良いかも知れない。

ご利用の際の注意点としては、ペーパーの注意書きにも書いてあるが、ブートローダの書き込みやスケッチのアップロードを各個で対応していただく必要がある、というこの2点に尽きる。特にブートローダの書き込みには、専用のAVRライターを用意したり、Arduino duemilanoveの基板自体を改造するなどといったことが必要になるが、この点にはご諒解いただいているということ前提での頒布なので、是非ともノークレームでお願いしたい。必要な情報についてはこちら。私も実際この方法でブートローダを書き込んだりしているが、Arduino Unoから構成が変わってしまったため、そろそろライターを買おうかなとさえ思っているところだ。

スケッチのアップロードは、既存のArduinoに載っているATmega328pと換装して書き込んだりしているが、XBee経由でアップロードする方法もあるとかないとか。どこかであるという情報を見たけれど、実際に自分で試せていない。もしかしたら普通に出来ることなのかもしれない。

ちなみにArchiduino-BBは、市販の価格で部品のみ1から集めると850円で準備できる。もちろんXBeeピッチ変換基板やXBeeチップ、ACアダプタは別料金である。売値1000円のうちのあとの150円は、パッケージ代と寄付金ということでありがたく頂戴いたしました。

今回の頒布で思ったのは、コの字型をしたジャンプワイヤが単品でばら売りされていない(あるいは知らないだけかも?)ことがすごく不便だなと思ったこと。ケーブルのものは売っているのだけれど、コの字型のほうは見たことがない(何度も言うが、知らないだけかも)。

(追記)どうやらなくもないけれど1つ10円するというのはちょっとお高いので、1つ1円くらいでなんとかならないものだろうか?

2. 私たち自身の展示物について

当日配布していたパンフレットはこちら。今回、初参加におつきあいいただいた諸氏の協力により、なかなか良いものができたのではないかと思っている。各展示物ごとにページが区切られているので、もし何度かつづけて参加することができた暁には、これらをまとめて一冊の本にしてみたいなとさえ思っている(妄想が過ぎるかな?)。

今回は早稲田大学渡辺研究室の厚意により、パンフレットの印刷代を持ってもらうことができた。印刷屋を使うことは、事前にはある程度考えてはいたが、実際に使うとなると入稿に関するいくつかのルールがあったりしてちょっと手こずった。トンボだとか色指定だとかよくわからんが、こちらとしては送ったPDFをそのまま両面で印刷して欲しいだけなので、プロっぽい仕上がりはとりあえず二の次で、そういう超簡単サービスってのがあってもいいのではないかと思う。

以下に各展示の要点について記す。私が直接関わっていないものについては、当日の掲示パネルから引用した。

2.1 Archiduino

地震動や建物の揺れ、エネルギー消費量や温湿度といった環境データ、居住者の行動や状態・心理などを観測する技術である「建築性能モニタリング技術」が建築分野で注目されて久しい。特に、日本のゼネコンらは独自に、あるいは関連するITベンダーらと連携し、オフィス空間レベルではかなりのものを実装できる段階にある。

しかしながら、モニタリングに必要なハードウェアインフラはおよそ高価であるため、一般の住宅レベルなどより広範に利用されるためにはそのコストを圧縮する必要がある。その方法論としては、複数の目的にまたがって複合的に利用できるようにすることでメリットを多重化したり、必要十分な性能に絞ってそもそも安価にしてしまおうという考え方がある。また、ハードウェアを後付け的に利用できるよう、設置と管理方法に柔軟性を持たせることで、個人でも対応できるような容易さを持たせることも必要だろう。

ここではArduinoをベースとした、簡易にして必要十分なセンサーネットワークインフラの構築を実証的に行うだけでなく、建築分野にとって必要十分な性能を持つ専用Arduinoクローンである「Archiduino」の試作に取り組んだ結果を展示した。

今後はハードウェア的に不十分な箇所(ハードウェアの違いによる取得データの整合性、既存のArduino用シールドとの互換性など)について取り組むことを検討している。また、住空間に設置しても何らおかしくない外装(Outer Case)のデザインにも取り組んでゆく。

2.2 Slipper 2.0

住宅やオフィスなどの居住空間で居住者の位置や行動をセンシングする技術は、携帯電話やPHS、アクティブ型RFIDタグを使ったものを含め、すでにいくつか存在するが、いずれも機能やコストにおいて一長一短である。

ここでは「スリッパ」のかかと部分に設置されたRFIDリーダと、床下に埋設されたRFIDタグとを用いることで、居住者の歩行軌跡を検出するデバイスの開発に取り組んだその成果を展示した。床下敷設型RFIDタグについては、2010年現在ですでに3軒の実験住宅において実装されており、実際の生活をモニタリングしたデータを取得している最中である。

居住者の行動モニタリング技術としてこの方法が妥当なものであるとは決して思っておらず、さまざまな方法を試してみたいと考えている。また、デバイスによる身体拘束性の低減と小型化、低電力化についても重要な課題である。現段階ではWindowsCEとPDAによる構成だが、Arduinoによる構成へと移行してゆきたい。

研究的には、行動パターンの検出(生活習慣の検出)や生活場面の文脈理解(コンテクストアウェア)、他の住空間システムとの連携などを是非とも実現したい。

2.3 OpenCVとProcessingで居住者の可視化

(展示パネルより引用)Arduino は安価にセンシング可能なデータデバイスです。そのデータをPachubeに送信し続け、それらをためていきます。それらのデータをSketchUpという図面を描くソフト上のオブジェクトに反映させ、リアルな世界とバーチャルな世界を結ぶ試みをしております。ここでは、実際の家をセンシングしたデータから室温を取り出して、室温の推移を可視化しております。

定点観測した画像を並べた動画は見ていて面白いものです。しかしながら、通常用いるにはプライバシーという問題とどうやって表示するのかという問題があります。ここでは取得した写真をOpenCVで減色処理し、Processing.jsを用いてホームページ上でもそれらの動きを表現することができました。

2.4 Arduinoで音の可視化+Human Probe & Share

(展示パネルより引用)都市や、テーマパークのような自由に散策できる状況にいる時、多くの場合はパンフレットや地図を見て、自分の行動を決めていると思いますが、知らずのうちに自分の周りの環境から影響を受けているのです。周辺で大きな音・変わった音がした時や、人の話声がガヤガヤと聞こえて来た時など、音のする方が気になって「ちょっと行ってみよう」という様に周辺の環境が人間の行動や心理に影響を与えていることがあります。そこで、本提案ではこの「音」に着目し、それを直感的に分かるように「見える化」し、散策者に情報を提供します。


人にセンサを取り付けデータを取得するという「Human Probe」という概念に基づき、音センサとGPSを散策者に取り付け、その人が「どこにいて、どんな音環境にあるのか」をリアルタイムで取得し「見える化」して提供します。また、一人のデータだけではなく、同様の機材を持つ複数名のデータを同期することにより、自分のいない場所、離れた場所の音環境を知る事ができ、行動のキッカケや興味の喚起を促します。この提案によって散策行動の範囲拡大や滞在時間の増加を促し、都市やテーマパークにおける散策行動をより活性化させることが出来ます。

2.5 ARモデリングツール

(展示パネルより引用)これからは、3Dデータのデジタル入稿やカスタムメイドでのモノづくりが盛んになると思われます。そんな世の中のために、形を決める際に机や椅子の正確な寸法を知らなくても、自分自身の身長や部屋の大きさに対応した「なんとなくの大きさ」でモデリングする事ができるツールを作りました。現実の空間に重ねて、原寸でモデルを作る事を目的としています。2台のカメラによるステレオビジョンで奥行きの座標を取っています。

3. 出展者としての感想

前回まではあくまで自分たちが「お客」として参加していたわけだが、今回は初めて「店側」としての参加であった。いろいろ気合いが入っていた点と、入れそびれた点とがあり、それらについてレポートしてみたい。

まず、私たちは前日の夜にいくつかの展示品を運び込むということを行った。いわゆる「前乗り」である。他の出展者さんたちも多数いるに違いない、ちょっとは内覧会くらいな感じかなと思っていたが、ところが現地に着いてみると、意外と誰もいない。大規模な出展を行う企業ブースくらいだ。というわけでこちらとしては展示物の設置リハをし、駅前のマックで買ってきたハンバーガーを食べながら、無駄に時間を費やしたというわけだ。

もっとも、配布用のペーパーなどはかなり重量があったので、車による前日搬入は正解だったかもしれない。ブース内の整理整頓、作品や備品の管理のために、2~3個はダンボール箱があった方が良いかもしれないと思った。

用意したペーパーは500部。最初ということもあってどれくらい用意すればいいか全く数が予測できなかったので、残ってもイイヤという感覚でやや多めに準備した。実際に配布してみると、2日間まるまる「配りまくる」ことでちょうど配り終わる感じであった。今回の来場者数が8000人程度ということを考えると、500部は6%くらいということで、もし次回があれば来場者予測数の5%程度で良いかもしれない。

開催日当日、始まって1時間と経たずに思ったのは、お客さんほとんどみなさんちゃんと話を聞いてくれるということであり、その説明が想像以上に大変だということである。お客さんは1回聞けば良いところ、我々はお客さんの数だけ話をしなければならない。一緒に参加してくれた学生のみなさんも言っていたが、のどが痛くなるくらいは必至であろう。今回は生協食堂での展示なのでさほど大声でなくても説明できたが、混雑を極める体育館ではもっと酷いことになっていたかもしれない。

もちろん、この点についての反省点はいくつかある。ひとつは、展示物の解説用パネルを初日までに準備できなかったこと。とりあえずこれだけ読めば何やっているかが分かる的なものをどうして準備しなかったか悔やまれたが、2日目はこれを用意できたことで多少は楽になったような気がする。もうひとつは、説明しなければ理解できない展示であったということ。せっかく「Make:」という場なのだから、何か動くような物体としての展示やデモを中心にして、もっと直感的に理解できる展示内容に厳選すれば良かった。あるいは、全体をまとめた5分程度のムービーを流し続けるとか、そういう方法でも良かったかもしれない。まぁでもお客さんと対面でコミュニケーションを取るというのが良さでもあるので、あまり省略しすぎるのも良くはない。せめて自分たちの休憩や他の展示物を見る時間をとるための時間稼ぎであるとか、用途は限定した方が良いかもしれないな。むしろ、説明の最中にいくつか見せたい写真や図表があったので、パネルとは別で、これらを用意しておいた方が良いかもしれない。

せっかくの参加と言うこともあり、プレゼンテーション(30分)もやってみた。これについては事前の告知などほとんどしていなかったこともあって、観客は最初5人くらいしかつかなかった。始めてみれば通りがかりのお客さんがちらほら寄っていくという感じだった。ほかの出展者らのプレゼンテーションでは、事前にペーパーを配布するなどしてかなり告知をしていたところなどは人だかりもできていたようである。もっとも、それだけ人を呼ぶほどのコンテンツを用意することの方が先ではあるな。なお、当日のプレゼンテーション資料はこちらにアップロードしてある。


4. 来場者としての感想

今回はあまり細かく見る時間が取れなかったので、2点だけ。

4.1 mbed

ポストArduinoと噂される「mbed」についてだけ書いておく。「mbed」はArduinoと同様にマイクロコントローラの一種だが、ArduinoがATMEL社のATmega328などを使っているのに対し、mbedはNXPセミコンダクターズ社のLPC1768を使っている。6000円ほどするmbedボード上には、USB、Ethernet、シリアル通信が実装されている。特筆する点としては、IDEはウェブベースのものとして用意されており、ブラウザ上でコーディングを行ったり、ライブラリをインポートした、コードのコンパイルをしたりする。mbed上での実行にはダウンロードしたコンパイル済みファイルを外付けUSBドライブとして認識されているmbedに保存するだけだ。

Arduinoに比べてやや値段は張るが、Ethernetシールドも一緒に買ったと思えば安いのかもしれない。単体としての性能はArduinoに比べて高性能である。ただし、A/D変換能については変わらず8bitである(もしここが10か12、あるいは16bitであったら間違いなくmbedを使っていたかもしれない)。mbedを部品から組み立てることが可能かと言えば、できないこともないのだろうが、今のところやっている人を見たことがいない。部品点数はArduinoと大差なさそうではある(未検証)。

Arduinoがもつハード的な広がり(クローンやシールドの豊富さ)とユーザー層にはまだ至ってはいないが、その性能の高さと魅力的な使い勝手の良さがゆえ、黙っていても今後はユーザーを増やしてゆくだろう。特にArduinoで出遅れた人にとっては、mbedは渡りに船かもしれない。私も一つ買ってみようかと思う。

mbedとArduinoの棲み分けについていえば、Arduinoの魅力はあの「限られた性能のなかで以下にうまくやるか」的なところにもあったわけであり、また、私自身がやっているように、必要な機能だけをチョイスして、コントローラに必要な核となる部分を自分で安く作れてしまうところにもあったわけだ。つまり、とにかくいろいろつまって高機能な心臓部が欲しければmbedをベースとすれば良く、Arduinoは量産や小型化、ストイックなまでの限界プログラミング(?)への挑戦、などという棲み分けが出来るかもしれない。ともかく、mbedをいじってみたいという欲求が私の中にも芽生えたようだ。

4.2 パーソナル・アンド・デジタル・ファブリケーション(略してPDF?)

現時点では3Dプリンタやレーザーカッターなど、業務用に使われていたツールが低価格で販売されるようになり、一般のユーザーでもこれらを使った製作が可能になってきた。これらのツールを使ったデスクトップ・ファブリケーションと、前述したArduinoやmbedなどといったラピッドプロトタイピングツールと組み合わさることで、動いて・楽しく・本当に欲しい・自分だけのモノが、それなりの品質で作れるようになってきた。これらのツールを連携させるのは、もちろんPCをはじめとしたデジタル端末であり、これによって実現されるのは、パーソナル・アンド・デジタル・ファブリケーション(PDF)である。これは着実に地歩を固めているように見える。

さて、我らが建築分野はこの流れとどのように関わろうか?

建築におけるパーソナルファブリケーション、すなわち「セルフビルド」の系譜は、建築史的には1966年の「ドラム缶の家(川合健二)」をひとつのターニングポイントとして考えることができる。早稲田出身の身としてはもちろん石山先生のことを忘れるわけにはゆかないが、それらの歴史を前にすると今の私は無知に等しい。これについては鋭意書物を読みあさるつもりである。それにしても理科大の図書館は蔵書が貧弱すぎるなコレハ。

現時点で語れること、私の甘い希望的観測で言えば、この新しいクラフトマンシップ、つまり「パーソナル・アンド・デジタル・ファブリケーション(PDF)」を建築の世界に対しても接続してゆきたいということだ。多少こじつけになるのかもしれないが、これまでに研究してきたこと、これまでに関わってきたプロジェクトなどすべて、この話に繋げられるような気がする。例えばモニタリングの話で言えば、得た観測データが建築を作る上でのコンテクストになり得るということや、E邸で見たパネル工法とその製造過程、RFIDなどICTを使った生産と流通の管理・効率化、データベース利用による材料・部品の管理と発注、メディアアート的なツールを用いたスタディツール、空間の管理や可視化のためのCADソフト利用、生産力のクラウド化、などなどである。こういった新しいツール、新しい方法論があれば、50年前とは違った方法でセルフビルドを考えることが出来るかもしれない。そう期待したいところである。

しかしながら今直感的に思いつく問題が大きく2点ある。

1つは、建築にさほど興味のない人、普通であればハウスメーカーや地元の工務店に相談に行くような人たちが、どのようにPDF建築に取り組むというモチベーションに接続していくことができるかという問題である。

ひとつのモチベーションとして、PDF建築の方がコストダウンが見込める、ということがあるかもしれない。しかしそれは果たして本当であろうか?あるいは仮にコストダウンができたとして、そのコストダウンに対して「作り手の時間・労力的コスト」が釣り合うだろうか?がんばった割に対して安くならなかった、ということにはならないだろうか?

そもそも近年は庭付きの一戸建てを持つ「一国一城の主」的なビジョンが持てない時代である。そういう時代において、もし本当に安く・楽しく・便利で・快適で・美しい住空間が実現できればこれは成功するかもしれない。そのためにこちらが準備・整備すべきことは非常に多い。一昔前にはやった「LOHAS」だって、雑誌を読んでいるあいだはなんとなくロハスな気分になれたかもしれないが、実際にロハスな生活をしている人がどれだけ増えたというのだろうか?ファッションではなく、本当に建築の「用強美」が手に入る手段として存在しなければ、ただのブームに終わってしまう。また、用強美を得るために建築家並みの特殊技能が必要になるというのであれば、要するに「ハードルが高い」というのであれば、それもまた不可と言うことになるであろう。

つまり、もうひとつの問題点として、一般の人でも可能な「建築設計」という方法論を根本的に考え直す必要があって、それを考える側も受け取る社会も、その変化にどれくらい耐えられるのかと言うことが問題になるのではないかと思う。

PDF建築を可能にするのは、単に既存のCADやモデラー、見積・積算ツールの使い勝手を向上させたり、ハードルを下げたりすればいいという問題ではない。また、お金がないから仕方なくPDF建築を選択するしかないというネガティブな姿勢の受け皿になるようなものであってもならない。

いわゆるマイホーム幻想は、高度成長期に国家の政策としてぶち上げられたものであって、30年とか35年といった長期間をローンの弁済に充てさせることで多くの人々を勤労の「奴隷」にし、そこから抜けさせなくさせた上で、勤労すべきもの以上に生産させられた「価値」を「ウワマエ」としてピンハネされていたわけである。酷い言い方をすれば国家ぐるみの搾取システムであって、搾取される側もその幻想を共有しあうことでむしろ積極的に連帯を保っていたと見ることもできる。政治的な観点から見れば、このようなヒトとカネとモノとを動かす「エコシステム(生態系、転じて収益構造)」は非常に良くできていると言えなくもないが、もう当代においてこの仕組みはうまくは回らなくなっているように思う。

つまるところ、私たちは与えられた「人生」という時間をどこでどのように、何をして暮らすのかという問題に行き当たることになるのであって、日本という国家の中で生きていくために最低限必要なお金をどうやって手に入れ、また、自分が満足できる生き方のために必要なカネをどうやって稼ぎながら、私たち自身のエコシステムを構築することができるのかという問いにぶち当たらざるを得ないのである。前時代のエコシステムは、これから住居を求めようとする若年者層に仕事もカネも回ってこない現代においては、もはや機能不全であることはすでに述べた。だからこそ、これからPDF建築を考えていくというのであるならば、そういったヒトの生き方、カネの回し方といったこともひっくるめて、また、その中でどうやって家を造るのかということについて考えて、考え直していかなければならないと思うのである。建築を社会的に考えるということの根本は、つまるところそういうことに違いないだろう。