元はといえば、ネットで見つけた記事に端を発する。その記事では「シチュエーション」を「情況」と訳し、確かSNSなどに上がってくるのはインフォメーションではなくてシチュエーションのほうだよね、みたいな内容だったと思う。インフォメーション(情報)を共有するんじゃなくて、シチュエーション(情況・場)を共有する風潮にあるんじゃないか、みたいな話だったと思う。その話を読んだときにほほうなるほどなと思ったことは確かだ。その上、もうちょっと自分なりに話を広げてみたいなと思うようなところもあった。それで「エモーション」を追加してみたらどうかという話になるわけである。
そもそも、シチュエーション(情況)とインフォメーション(情報)という2つのくくりは、それが「ふたつ」というだけでなにか物足りないと感じさせる。直感的には3つくらいのくくりにした方がよさそうだし、理屈っぽくいえば、シチュエーションとインフォメーションとの違いは情報の抽象度のようなものの高さに他なるまいと思ったことから、やはりこれも上か下かというよりも、上中下の三段にした方が収まりがよいだろう。
また、「~ション」という英語の響き、あるいは「情~」という日本語の語呂の良さがここにはある。情報の抽象度を3段階として、しかも「~ション」や「情~」となる良さそうな言葉はないかと考え始めたわけだ。こういうときは大辞林か類語新辞典をひくに限るのだが、答えは案外すぐに見つかった。
そもそも、「情~」ではじまることばで情報の抽象度が低いもの、つまり、人間の大脳辺縁系あたりにダイレクトに作用するようなものといえば、「情動」とか「情緒」しか思いつかない。これは訳すまでもなく「エモーション」である。図ったかのように実に語呂のよい組み合わせとなった。意味も含めて整理すると、以下のようになるだろう。
- シチュエーション:情況、場。ようす。その場の現象そのものを指すため、きわめて客観性が高く、主観的な要因は廃されるレベル。有象無象。
- インフォメーション:情報。しらせ。情況を何らかの主観によって「意味」へと昇華させたもの。意味は観測するものによって異なり、理性で処理される。
- エモーション:情動、情緒。(心の)うごき。より人間の生物としての本能に近いところで処理されるもので、生理的な作用をもたらすレベル。
センシングによって観測しているものは、温度や湿度、照度などであるから、これらはせいぜいシチュエーション(情況)でしかない。現象そのものの記録であり、はっきり言って人間のアタマでは処理しきれない。処理しきれないというか、処理する以前のもののことである。ビッグなデータそのものである。したがって、これを人間のアタマで理解できるものにする必要があるわけで、その方法論としては、単純には統計解析であり、今風にいえばマイニングなりの方法が求められる。この段階ではせいぜい「こういう傾向がありますよ」とか「~と~の関係はこうですよ」とか、もっと単純には「平均気温が○度ですよ」といったことでしかない。ある主観が持つ「知りたいこと」に対応する答えを、シチュエーションから掬い上げたのがこの段階である。
ここから先は、これをもうちょっと人間の深い部分、つまり本能とか無意識と呼ばれるようなところで感応できるような、より直接的に人間に訴えかけるレベルで作用するもののことになる。アタマで考えて「そうした方がいいと思う」というのではなく、もっと直感的に「なぜだかそうしたくなる(ということさえ気づかないレベルでそうしたくなる)」というところの話となる。これがエモーションだ。
シチュエーションとかインフォメーションの部分の話はすでに研究でもやってきているけれども、最後のエモーションの部分はなかなか手がつけられていないのが現実ではある。今のところ、快適とか不快といった感情へ訴えるといった環境工学的なアプローチでやれないかと考えているところではあるが、果たしてそれが妥当なのかどうか、確信が持てずにいる。そういった仕掛けをどうやってあざやかにつくってのけるかといったところに、まだ着想が持てないでいる。
といったことを分析の合間の手持ちぶさたに書き残しておく。